2008岡山市大安寺、野殿地域におけるダルマガエルの保全活動

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岡山の自然を守る会の会誌166号(2008冬)で紹介しました記事
を転載いたします。

1.ダルマガエル保全プロジェクトの活動

 岡山市大安寺、野殿地域では、絶滅危惧種ゴヤダルマガエル
(以下、ダルマガエルという)の保全活動をしています。当地域は、
岡山市内で最も西に位置するダルマガエルの生息地とされています
が、2005年から2007年にかけて、生息地の大規模な開発が相次ぎま
した。
 そこで岡山市の指導のもと、開発事業者が市民と協力し、開発地
ダルマガエルを採集して付近の水田に引っ越しを行いました。現
在は、「ダルマガエル保全プロジェクト」と銘打った任意団体を起
ち上げ、一般市民を集めたイベントや地道な現地観察によって、引
っ越し後の経過を見守っています。

2.引越し後のダルマガエルの生息状況

 ダルマガエルが生息していた場所は、稲作を行っている水田やヨシ
が密生したような休耕田で、地盤高が低くかんがい期には時折冠水す
るような環境でした。そのため、引っ越し先にはそういった環境と似
た耕作水田や休耕田を探し、土地の所有者と管理者の許可を得たうえ
でカエルを放しました。現在、もともとの生息地周辺の耕作水田や休
耕田に3箇所の引っ越し先があります。いずれも、現況ではダルマガ
エルが生息していない場所で、環境条件も異なっており、引っ越し後
の経過をモニタリングしているところです。そのうちの1箇所におい
て、今年良好な生息状況が見られたので、報告します。

3.引越し先(休耕田)における生息状況

 2006年5月に、約730頭のダルマガエル成体を放しました。その後、
隣の水田で幼生が、水路を越えた周辺の水田で成体の鳴き声が確認さ
れました。また、翌2007年の5月には、越冬後の成体が休耕田内で57頭
確認され(実際にはもっといたと推測しています)、しかも引っ越し以
降に繁殖した可能性の高い体長3、4cmの小さな個体が多く含まれていま
した。これによって、引っ越し先したあとも、付近の水田においてカエ
ルの主な生活史である、繁殖 → 成育 → 越冬 の過程がある程度成立し
ていることが分かりました。
 この休耕田は、所有者の理解が得られ当プロジェクトによって管理す
ることが可能でした。そこで、次に行ったことは、ダルマガエルの生息
に適した(と考えられる)環境づくりです。通常の水田においては、田
植えが行われる6月中旬から中干しされる7月下旬までの間は継続して水
があります。カエルはその期間内に産卵、ふ化、幼生の成育、変態・上
陸までを行う必要がありますが、現実には7月下旬にはまだ多くの幼生が
残っており、中干しによって死に絶える個体数は少なくないものと推測さ
れます。そこで、地下水位が非常に高いことが分かっていた当地において、
2007年の春に圃場の中に溝を掘り、いつも水がたまった環境を作り出しま
した(写真1)。
これが功を奏し、2008年の6月から8月にかけて、溝の中でダルマガエル
の幼生が大量に発生しました。タモ網で、ひと網すくうごとに10数頭が入
る状態で、全体では数千から万の単位でいたと思われます。
(写真2)。
 それらの幼生は順調に成育し、秋には非常に多くの上陸個体が見られま
した(写真3)。

4.これからの保全活動
 今年の観察により、一部の引っ越し先は、ダルマガエルの生息地として
十分に機能しそうなことが分かりました。今後もモニタリングを行い、ダ
ルマガエルの生息状況を把握するとともに、ダルマガエルの生息に必要な
環境条件について考えていきます。また、ダルマガエルのすみかである水
田などの農村環境を保全することの意義について、当プロジェクトを通じ
て啓発を行い、地元住民の理解者、協力者を増やしていきたいと考えてい
ます。

貸谷 康宏(野殿ダルマガエル保全プロジェクト事務局・(株)ウエスコ)